知的財産
考え方・方針
持続的なイノベーション創出をリードする知的財産経営戦略
知的財産経営理念
ナブテスコグループは、お客さまやパートナー企業など、すべてのステークホルダーが持続的成長を図ることができるように、当社の事業競争力の源泉である現在および未来の「コア価値(知財・無形資産)」の持続的な競争優位を担保する「知的財産経営戦略」をナブテスコグループ全体で推進することで、持続的な企業価値向上を追求します。
ナブテスコの「コア価値」
ナブテスコの「コア価値」は、いわゆるコアコンピタンス(中核となる強み)だけでなく、競合企業も保有している技術等であっても、お客さまへの価値提供に必要な技術等を含むものとなります。
コアコンピタンスだけではお客さまに価値を提供できないため、対象を広く捉えており、更に特許などの知的財産権だけでなく、ノウハウや取引実績、サプライチェーンなども含まれる知財・無形資産をいいます。
そして、現在保有しているコア価値(現在のコア価値)と、将来必要となるコア価値(未来のコア価値)を事業毎に定めています。
さらに現在および未来のコア価値は全社共通の切り口(機能や目的)で可視化され、共有されています。
業績評価の基準に「知財創造」を設定
2017年度からは、社内カンパニーとグループ会社の業績評価項目に「知財創造」を新たに加え、コア価値(知財・無形資産)を獲得・強化するための知的財産戦略活動を体系化し、社内カンパニーとグループ会社の中期経営計画の中で、その知的財産戦略活動を事業計画の一つとして策定、実行することを徹底しています。
創立記念式典
また、すべての技術者が自ら新事業や新技術のアイデアや設計・製造のノウハウを創造する風土を構築するために、その創造活動を業績評価の対象として積極的な活動を奨励すると共に、事業に貢献する発明をなした方々(2022年までに延べ182名)に対して、会社の創立記念式典で優秀発明者表彰を行い、全社でその栄誉を称え、社員の創造意欲の高揚を図っています。
優秀発明者を示すバッジ
このような活動を通じて、発明、意匠およびノウハウに関する知財創造届出件数は、以下のグラフに示すように、2013年度から着実に増加し、2022年度には約5倍の件数に増大しています。
本社エントランスに掲示されている当社事業に貢献した発明等
知財創造届出件数
- 2015年の数値は、決算期の変更に伴い年換算に調整しています。
知の探索によるイノベーションを推進する施策
2022年からいわゆる知の探索によるイノベーションを活性化させる一つの取組みとして知財創造する人の多様性を高める活動を展開しており、この活動状況を示す指標として「発明者割合」を設定しました。
この「発明者割合」は開発者だけでなく生産技術者を含む技術者に対する知財創造届出を行った発明者等の実数の比率で、年度単位で算出されるものであり、多様性が継続的に維持・改善されているかを示すものです。
更に新たな市場ニーズ等を収集し、イノベーションに繋げた営業担当者等を対象とした知財創造支援者制度により、全社一丸となったイノベーション推進を図っています。
発明者割合(ノウハウ・意匠創作者含む)
お客さまの事業や製品の未来を守る
これらの取り組みにより、知の探索と知の深化のバランスを取りながら従業員一人ひとりの「創造力」を高めてイノベーション創出の加速と多様化を図り、コア価値(知財・無形資産)の増大を図っています。
社会のさまざまな領域で、業界トップクラスのお客さまからの信頼を軸に事業を拡大してきたナブテスコグループにとって、知的財産経営戦略とは、お客さまの事業や製品の現在と未来を守ることで当社の事業価値を高める戦略でもあります。お客さまやパートナー企業など、すべてのステークホルダーとともに持続的かつ利益ある成長を実現するために、ナブテスコグループの知的財産活動はこれからも進化を続けます。
体制
知的財産戦略体制
ナブテスコの知財戦略体制は、大きく3つの審議体から構成されています。
一つ目はCEO、コーポレート部門役員、カンパニー社長およびグループ会社社長等の経営陣が参加する全社知財戦略審議です。本審議では全社の知的財産戦略の基本方針を審議します。
二つ目は、コーポレート部門の部門長、および社内カンパニーやグループ会社(以下、総称して「社内カンパニー等」といいます。)の知的財産力強化の責任者である知的財産強化責任者(各社内カンパニー等社長等が任命)が参加する知的財産強化委員会です。本委員会では全社知財戦略審議で決定された基本方針に基づく、各社内カンパニー等の知財戦略活動に関する情報共有の他、各社内カンパニー等の共通課題に対して全社横断的な対策等を審議するなど社内でのシナジー効果を図っています。
三つ目は、各社内カンパニー等毎に開催され社内カンパニー等社長や社内カンパニー等の各部門長が参加するカンパニー知財戦略審議です。本審議では全社知財戦略審議での基本方針と知的財産強化委員会で情報共有したカンパニーの知財戦略活動等を参考に、知財創造活動、権利活用、新市場開拓、新製品開発等に関するカンパニー等固有の知的財産戦略を審議します。
これらの3つの審議体の有機的な連携により、ナブテスコグループとして最適な知的財産戦略を実行できる体制を構築しています。
さらにこれら3つの執行側の知財戦略活動に関し、取締役会による監督も行われています。
知的財産戦略の実行・監督体制
取り組み
知的財産戦略の全体像 ~コア価値の獲得・強化~
コア価値獲得・強化戦略と知的財産戦略の関係
長期ビジョンに基づき社内カンパニー等毎に中期経営計画が策定され、それに基づき、現在のコア価値(例えば、高出力密度設計技術、加工組立・表面処理、販売施工網など)や未来のコア価値(例えば、IoT活用技術、電動アクチュエータ―関連技術など)を獲得するためのコア価値獲得・強化戦略が各社内カンパニー等で策定されます。
そして知財情報を分析して技術動向を探るIPランドスケープ、このIPランドスケープ結果を活用したオープンイノベーションを含む知財創造活動、開発初期段階から知的財産権を取得する先行的知財網構築、ナブテスコグループの製品・サービスによる他社知的財産権侵害を防止する知財クリアランス、競合企業等の知財力分析、模倣品排除、ライセンス・係争・訴訟、ナブテスコグループのノウハウ(コア技術情報)を徹底的に保護する秘密情報管理、技術契約戦略、コーポレートブランドの保護・活用を図るブランド商標戦略 に関する活動を通して、コア価値(知財・無形資産)を獲得・強化するために知的財産面で実行するものがナブテスコグループの知的財産戦略となります。
コア価値獲得・強化戦略と知的財産戦略の関係
知財インテリジェンス ~競争力強化策の策定~
ナブテスコグループでは、コア価値獲得・強化策を策定するにあたり「知財インテリジェンス」を駆使しています。具体的には、社内カンパニーやグループ会社の現在のコア価値(知財・無形資産)を、事業および知的財産の両面から、顧客ニーズへの対応度合いや競合に対する競争力を比較分析します。その分析結果を踏まえ、現在のコア価値と将来あるべきコア価値とのギャップを認識した上で、コア価値獲得・強化策を策定し、事業競争力の維持・向上を図っています。
未来のコア価値獲得に向けた知財戦略活動
現在のコア価値と未来のコア価値のギャップを埋める手段としては大きく3つあります。一つ目が各事業で自力開発することです。二つ目が他の社内カンパニーやグループ会社のコア価値(知財・無形資産)を活用することです。三つ目がオープンイノベーションやM&Aを活用するものです。
自力開発や他の社内カンパニー等のコア価値(知財・無形資産)を活用する場合は、知財網構築、知財クリアランス、秘密情報管理が知財戦略活動の中心とになります。
オープンイノベーションやM&Aついては、IPランドスケープによる候補探索や評価、知財網構築、知財クリアランスが知財戦略活動の中心となります。
ナブテスコグループは様々な分野で長年、事業を行ってきたことから、各社内カンパニー等が保有しているコア価値(知財・無形資産)のレベルは高く、多様性に富んでいます。そのため、他の社内カンパニー等の現在のコア価値(知財・無形資産)を基礎とすることで別の社内カンパニー等の未来のコア価値(知財・無形資産)をより早く獲得することが可能となります。
未来のコア価値獲得に向けた知財戦略活動
各社内カンパニー等が保有している現在のコア価値の例
(特許・実用新案のみをランドスケープマップで表示)
- 2021年10月末時点で公開されているナブテスコグループの国内外の特許・実用新案出願に基づき作成
- 点が特許出願を示し、類似する特許出願同士が近くに配置
- 点の密度(件数)に応じて地形図のように山谷を表現
市場特性に応じたコア価値の獲得・強化戦略
ナブテスコグループでは、経済学や経営学の理論を活用しながら市場特性を考慮したコア価値(知財・無形資産)の獲得・強化戦略活動を行っています。
IPランドスケープによる新事業創造、新市場・顧客ニーズ探索
IPランドスケープの実施目的
IPランドスケープとは、いわゆるパテントマップとは異なり、自社、競合他社、市場の研究開発、経営戦略等の動向及び個別特許等の技術情報を含み、自社の市場ポジションについて現状の俯瞰・将来の展望等を示すものです。
公開情報に基づき分析するため、IPランドスケープで見えるのは企業情報の一部のみですが、特許出願等の知財情報には現在利用されている技術だけでなく、将来利用される可能性がある技術や解決すべき課題が含まれています。そのため、IPランドスケープを活用することで事業戦略の精度を上げることができます。
IPランドスケープ活動の分類と事例
IPランドスケープ活動をアンゾフの成長マトリックスの形で表現したものが以下の図になります。例えば、既存市場に対して新製品・サービスを提供する場合は、顧客ニーズ分析を行い顧客の技術動向や課題の把握を行っています。
そして、この分析結果をもとに新事業テーマ・市場・顧客ニーズの探索や開発テーマの検証、オープン・イノベーションなどの協業先の探索など、将来事業の方針設定や他社連携の議論を社内カンパニー等と行っています。
2017年から全社テーマ60件以上、社内カンパニーおよびグループ会社固有テーマ100件以上を実施しています。
IPランドスケープ活動の分類
IPランドスケープ事例(市場ニーズの探索)
IPランドスケープ事例(自社コア価値の分析)
- 2021年10月末時点で公開されているナブテスコグループの国内外の特許・実用新案出願に基づき作成
- 点が特許出願を示し、類似する特許出願同士が近くに配置
- 点の密度(件数)に応じて地形図のように山谷を表現
- 重なり部分:技術的に共通し、コア価値が横展開できる領域
- 谷(星印)の部分:コア価値の強化や組合せ検討の対象
IPランドスケープ事例(自社コア価値の分析~SDGs~)
対象特許等のカテゴリー
●
- 風力発電装置関連
- エネルギーの利用効率改善や損失低減関連
●
- プラットホームドア関連
- バスの安全運行関連
●
- 小型化・軽量化関連(モビリティ関連/建機以外)
- 長寿命化/耐久性向上/廃棄/リサイクル関連
●
- 軽量化関連(モビリティ関連、建機)
- 高効率化/各国排出規制対応/アクチュエーターの電動化関連
- 2021年10月末時点で公開されているナブテスコグループの国内外の特許・実用新案出願に基づき作成
- 点が特許出願を示し、類似する特許出願同士が近くに配置
- 点の密度(件数)に応じて地形図のように山谷を表現
- 当社製品/サービスが顧客事業のSDGs対応を間接的に支援
- 今後もSDGs対応知財の創出にも注力
IPランドスケープ事例(共創・M&A候補探索 補完関係)
技術分野毎に当社とM&A候補との特許出願状況を比較することにより、技術的な補完関係の有無を把握することができる。
IPランドスケープ事例(新市場・新技術の探索)
洋上風車システム全体の特許マクロ調査
出典:上記の図は「NEDO再生可能エネルギー技術白書 第3章風力発電」掲載の図を引用し作成したもの。
システム全体を分析対象することで、真の顧客ニーズを把握。
→個別製品・サービスの開発に活用
秘密情報管理と知的財産権獲得の戦略的な活用
ナブテスコグループの競争力の源泉であるコア価値には、お客さまとの深い信頼関係や市場でのブランドの構築、商品、サービスにおける技術アイデアや、設計・製造ノウハウなどが含まれ、これらは多数の特許、意匠、商標、営業秘密等の知的財産で保護されています。
創造されたコア価値(知財・無形資産)は、原則として、全てコア技術情報(秘密情報)として徹底した秘密情報管理(コア技術情報管理)がされています。コア技術情報管理の一環として、全役員・社員(含む派遣社員)を対象に毎年情報管理教育を行うとともに、万一の国内外の裁判でも耐えうるような証拠形成も行っています。さらに業務監査部門とも連携して管理体制の維持も図っています。
一方、製品販売等の事業活動で公開するため、秘匿することが困難な技術的コア価値のみ、知財網を構築する知的財産権獲得戦略で保護を図っています。2022年末の時点で日本2,300件以上、アジア1,700件以上、欧州1,100件以上、米州500件以上の特許・実用新案・意匠(出願中含む)からなる知財網を構築しています。
現在のコア価値とともに新たに生み出される未来のコア価値をこのコア技術情報管理と知的財産権獲得戦略の両面で保護することにより、ナブテスコグループの総合的な知財・無形資産力を持続的に増大させ、これにより企業価値の持続的な向上を図ります。
技術的コア価値保護の基本的な考え方
コア価値獲得・強化のための知財戦略
知財情報共有システムの構築と今後の展望
コア価値獲得・強化計画に基づき知財創造や知的財産権獲得を行うために、コア価値(知財・無形資産)として社内で創造されたアイデアやノウハウ、デザイン等の知財届出、IPランドスケープ結果、技術契約情報等の情報等を知財情報共有システムでワンストップで検索、参照できるようにすることで、社内での情報共有と新事業創造やM&A、知財網構築等の事業活用を図っています。
今後の展望:知的財産の集中管理と事業活用の推進
知財クリアランスの実行
ナブテスコグループでは、お客さまの事業や製品を守ることを必須項目とし、ナブテスコグループの事業・製品を守ることを必要項目として、事業化プロセスの中で知財クリアランスを実行しています。具体的にはコア技術情報管理、知的財産権獲得、他社の知的財産権侵害防止、技術契約遵守、模倣排除、商標・著作権保護等の活動を事業化プロセスの中で実施しています。
2018年以降で80件以上の製品・サービスについて実施しています。
知財リスクマネジメント:知財クリアランスの実行
模倣品排除
ナブテスコグループのブランドを信じて購入したお客さまが損害を被らないように、ブランド模倣はコストが掛かっても徹底的に排除する方針と取っています。
社内カンパニーおよび国内外グループ会社からの情報のほか、展示会の定期巡回、ECサイトへの出品状況や企業ホームページの定期的な監視、過去に警告して侵害中止した企業の定期監視等を行い、模倣品の早期把握を図っています。
その結果、2019年以降で240件以上の侵害警告を行っています。