SCROLL
設計者を
たずねる
毎日『ALLUX2』を履くようになっても、
そこに込められた考えや
想いのすべてを知ることはできない。
今回、片山真理が訪ねたのは、
ナブテスコ甲南工場。
『ALLUX2』の開発・設計チームと対話をする中で、
自らを支える義足開発の
舞台裏に迫っていく。
自らを支える義足開発の舞台裏に迫っていく。
MEMBERS
ナブテスコ株式会社
住環境カンパニー
福祉事業推進部 技術課
竹澤 善則
ナブテスコ株式会社
住環境カンパニー
福祉事業推進部 技術課
中矢 賀章
ナブテスコ株式会社
住環境カンパニー
福祉事業推進部 技術課
三竿 太志郎
ナブテスコ株式会社
技術本部
電気電子エンジニアリング部
橋本 浩明
莫大なデータの分析と
テストの積み重ねで
“自然に歩ける”を追求
片山:『ALLUX2』を利用するようになってから、歩くことが楽しくなったんです。20年以上義足を履いてきましたが、義足を身体の一部だと思えず、道具という認識をずっと持っていました。でも、『ALLUX2』は本当に相棒のような感覚で使用できており、そんな製品がどんな考えで開発・設計されたのか、非常に興味があります。
竹澤:『ALLUX2』では“自然に歩ける”を目指したので、そういっていただけて何よりです。人間の膝に似た動きとなる四節リンク機構と歩行をサポートする油圧シリンダの電子制御を組み合わせており、緻密な設計はもちろん、模擬義足を履いて何度もテストを行い、最適なアシストができるように調整を何度も重ねています。ここにいる3人は、テスト歩行を何度も行っており、模擬義足で歩いて機能評価することができる模擬義足のプロです。時には飛んでみてテストを行っており、歩行だけでなく、生活でのさまざまな場面を想定してテストしています。
中矢:自然に歩くことができる限りなく足に近い義足を目指してきましたので、特に油圧電子制御のセンサーやソフトウェアについては、何度もテストを重ねて、その都度橋本くんにソフトウェアを改修してもらいました。
橋本:極力何も考えなくても歩ける製品を目指していたので、そこは妥協できないポイントでした。テストの前段階でも、あらゆるデータを収集・分析することで、どんな歩行パターンの方でもご利用しやすいようにプログラミングしています。
片山:確かに、以前は義足を履いている際は、歩くことに全神経を注がなければならなかったのですが、『ALLUX2』を使うようになってからは飲み物を飲みながらでも自然に歩けるようになりました。また、ターミナルインパクト(※)のあり/なしを設定できる点も、とても気に入っています。なぜ、利用者が選べるように設計されたのですか?
中矢:義足において、機能や性能はもちろん大切なポイントですが、それと同じくらい自分に合う/合わないという好みに合わせられることも非常に重要だと考えています。ターミナルインパクトも、欲しい方といらない方で好みが分かれるので、ご自身で選択できる調整幅がある方が良いと思いました。
片山:そうなんですよね。感覚的な部分が非常に大事で、私はターミナルインパクトがあった方が安心して歩けるので助かっています。
※義足での歩行時に膝が曲がってから伸びきるタイミングに発生する衝撃。余分な衝撃力を好みに合わせて緩和する機能が『ALLUX2』にあります。
デザインへの
こだわりによって、
周りの反応も
大きく変わった
片山:デザインもとても気に入っているのですが、どういった点を意識して設計されているんですか?
中矢:デザインについても人の足のシルエットを意識しており、曲線にこだわりました。あとは、見た目のこだわりという点では、塗装も施しています。この点については、三竿くんが試行錯誤を重ねてくれました。
三竿:やはり、塗装をするとしないとでは、見た目のカッコ良さに大きな差が出るんです。ただ、材料には塗装がのりやすい物とそうでないものがあり……この点については資材を管理するメンバーと何度も議論して説得しました。
片山:なぜ、そこまで妥協せず、塗装にこだわったんですか?
三竿:単純に塗装が好きなんですよ!
片山:素敵ですね。誰かのこだわりや美学が、自分が毎日使っている物に込められているというのは、私としても嬉しいです。実際に街を歩いていても、周りの人たちの反応は変わりました。以前は、義足から目線を逸らされる方が多かったのですが、そういったことは少なくなったように感じます。その中でも一番変化が大きいのが義足を初めて見る子供たちです。前は義足を見ると怖がったり、泣き出したりする子が結構いたんです。でも、『ALLUX2』を使うようになってからは、みんな怖がらず、逆に興味を示してくれる子が増えましたね。やっぱり、義足を使う人にとって、機能はもちろんですが、見た目も非常に大切な要素なんですよ。
三竿:そう言っていただけると、塗装にこだわったかいがあります!
娘との距離が縮まった
片山:実は、『ALLUX2』を使うようになって、私と娘の距離感も変わりました。数年前に、娘を抱っこしている時に膝折れし、転んでしまったことがありました。それ以降、膝折れの不安がいつも頭の中にあり、立って抱っこすることができなくなってしまったんです。娘も何となく不安に感じているようで、私が立ったり歩いたりしているときは、自然と距離を取るようになっていました。しかし、『ALLUX2』を利用することで膝折れの不安がほとんどなくなり、娘と触れ合う機会が増えました。先日、歩いている時に、久しぶりに娘が「ママ、手を繋ごう!」と言って駆け寄ってきてくれて本当に嬉しかったです。
竹澤:そう言っていただけると、我々としても本当に嬉しいですし、自分たちが取り組んでいる仕事の意義を感じられます。
橋本:もっと自然に、そしてキレイに歩ける義足の開発にこれからも力を注いでいきたいと改めて思いました。
中矢:実際にユーザーが自分たちの製品にどんな価値を感じているのか、なかなか知る機会がないので、嬉しいです。
三竿:開発・設計をする際に、何度も義足を利用される方のことを考えますが、自分たちの製品がユーザーだけでなく、その周りの方々にも影響を与えているという点に新たな学びと喜びを感じました。片山さんとお話しさせていただく中で得られた視点を今後の開発にも活かしていきたいです。
片山:私も皆さんとお話しさせていただき、開発・設計にまつわるストーリーを知り、『ALLUX2』のことがもっと好きになりました。「誰よりも綺麗に歩きたい」と想って生きてきましたが、皆さんの努力や想いを知ることで、その目標にまた一歩近づけたような気がします。今後の開発も本当に楽しみです。次はぜひ、どんな高さのヒールでも歩ける、足首も動く足部を、ナブテスコの油圧技術で!