カーリング女子日本代表  
ロコ・ソラーレ特別インタビュー

「せーの」でうごかすエネルギー。そして、とめる役割。

ー2016年世界選手権銀メダル、2018年平昌五輪銅メダル、2022年北京五輪銀メダルetc……。カーリング女子日本代表のロコ・ソラーレはこれまで多くの快挙を達成し、日本のカーリング史と人々の心をうごかしてきました。
そして、カーリング世界ツアーの最高峰タイトルであるグランドスラムのひとつをアジアのチームとして初めて制覇するなど、また新たな景色を見た昨季。本人たちに少しだけ振り返ってもらい「もっとも心がうごいた瞬間」を聞いてみました。

  • 吉田夕梨花選手(以下、夕梨花)1月のグランドスラムの優勝が決まった瞬間です。相手選手と握手を交わした後、みんなで輪になって「ようやく勝った」と実感した時に抱いた「自分たちのカーリングで、ついにここまで来たんだ」という喜びは、どこかカーリングをはじめた小学生の頃の、ひとつひとつできることが増えていくウキウキした感覚に似ていて、高揚したのを覚えています。
  • 鈴木夕湖選手(以下、鈴木)私もいいほうはグランドスラムでの優勝です。でも、心がうごくという意味では7年ぶりに出られた世界選手権で思うように勝ち星を重ねられず、久しぶりにめちゃめちゃ悔しい気持ちになったことですね。準備不足でできたはずのプレーができず、大会を終えた時に「このままじゃ終われない。また挑戦しに戻ってきたい」ということが、大きな目標になりました。
  • 吉田知那美選手(以下、知那美)私も世界選手権の負けです。6位という結果は上位なのかもしれませんが、鈴木選手が言ってくれたように、準備不足で勝てないという状況に自分たちがしてしまった大会でもありました。どんなに頑張ってもパフォーマンスにつながらない。そういうもどかしさや準備に対しての後悔は大きいです。でも、それは決してネガティブな感情ではなく、「またトレーニング頑張りたい。カーリングもっとうまくなりたい」というエネルギーになって私たちを今年もうごかしてくれそうです。
  • 藤澤五月選手(以下、藤澤)私は特定のこの大会、というより世界ランキング1位のカナダのチーム・エイナーソンとの試合でいつも心がうごきます。特にPCCC(パンコンチネンタル選手権)で対戦した時は、ラウンドロビン(総当たり予選)で負けてしまい、私は正直、再戦するなら決勝がいいなと思っていたのですが、鈴木選手が「やった。準決勝でリベンジできる!」って喜んでいたんです。それを聞いて「確かに!」と納得できて、チームとして波を得るというか、前向きに試合に入れたのを覚えています。
  • エイナーソンは本当に強いチームで、「課題が出たな」と思える試合を振り返ると、いつも相手は彼女たちなんですよね。向こうも成長しているし、「どうやって勝てるんだろう」って、みんなで試行錯誤しながら挑んでいます。

うまく化学反応が起こって
成立しているチーム

―「うごかす」技術と同じくらい、「とめる」技術も大切ですが、ロコ・ソラーレの場合、特にアイスの外で「とめる」役割を担っているのが、チーム最年少の夕梨花選手だとか。鈴木選手や知那美選手は「みんな勝手にうごくから、とめるのは大変だと思う」と、どこか他人事ながらも、30歳になったばかりの夕梨花選手にチームは全幅の信頼を寄せています。

  • 鈴木夕梨花選手、誕生日おめでとう。
  • 知那美30歳ってすごい。
  • 鈴木シンジラレナーイ。30歳がチーム最年少なんて!
  • 夕梨花こうやってみんな勝手にしゃべり倒したり動き回ったりするので、とめるのは私の役目かもしれません。
  • 知那美うごかすことはしなくても、勝手に動いてるからね。「とめる」ほうが多いよね。
  • 夕梨花このチームは「うごかす」より「とめる」ほうが難しいと思う。「今はストップ!」とかよく言っている気がする。

  • 知那美そうかもね。「うごかす」という意味では、石崎選手が言ってくれたように、一度、負けてどん底から這い上がったりするのは得意かもしれない。
  • 鈴木崖っぷちは何度も経験しているからね。
  • 知那美それでも、どん底からみんなで手を繋いで「せーの」と一歩踏み出すエネルギーや底力が必要なんです。その「せーの」を叫ぶ私のでっかい声や、鈴木選手の「よし、1回、忘れよう」というポジティブな切り替え、夕梨花選手の「うちらなら大丈夫でしょ」という冷静な分析、藤澤選手がまっすぐな感情で時に見せてくれる号泣、石崎選手はそんな私たちを見て流す涙。それはどれも絶対に欠かせない要素で、それらがうまく化学反応が起こって成立しているチームなんだと思います。
  • 鈴木思いのほかきれいにまとまった。

「勝手に身体も心もうごいています」

―夕梨花選手はリードとして攻守のくさびとなるガードストーンを、多くのエンドで同じところにうごかし、とめる役割について。豊富な練習量で知られている鈴木選手には自分を「うごかす」秘訣を。カーリング界屈指のインフルエンサーでもある知那美選手には、人々の心をうごかし、カーリングをさらに広く普及するために考えていることを。世界的なスキップとなった藤澤選手には、これまでのカーリング人生でもっとも心がうごいた瞬間。そしてロコ・ソラーレに欠かせない5人目の選手、石崎選手がチームに加わった2020年、どのような心のうごきがあったのか。それぞれの「うごかす、とめる。」を掘り下げてみました。

  • 夕梨花私のポジションはテイクを使うことは少ないですし、幅広いウェイトよりも、ある程度、同じようなショットをいつでも出すことが求められます。投げる技術は備わっていると思っているので、それをいつでも100%投げられる選手になるために、頭と心の準備が必要だと思っています。
  • そのためにはストーンを投げる時、自分の頭の中にある思考や想像、予測を意識しています。練習の時は失敗してもOKだから、投げることをただ繰り返すだけではなくて、何を考えていたら失敗したのか。頭の中に何があればショットが決まるのか。練習ではそれを探って、自分でしっかり理解して、頭の中をスッキリさせた状態で試合に臨むようにしています。
  • 鈴木ロコのメンバーを尊敬できるのは練習量もそうなんですが、トレーニングのメニューや量を、自分で把握して必要な分を各自でこなしていることなんです。だから誰がやっているとかやってないというのは一度も思ったことはなくて、それぞれが必要なことをしっかりやってチームの力になっている。それはチームの長所だと思います。
  • 私は自分では、たくさん練習している意識はないんです。落ち着きがないとか言われる割に、地味な作業や淡々と繰り返す練習は昔から好きです。積み重ねることで、ちょっとずつできるようになっていく感覚も楽しい。だから自分を「うごかす」というよりも勝手に身体も心もうごいています。オートマチックです。
  • 知那美カーリングの普及 ですか、難しい質問ですね。カーリングってだいぶ認知はされてきてはいますが、やっぱりまだまだマイナースポーツに分類されるとは思っています。だから裾野を広げるためにも、多くの場所で多くの人に体験してもらって知ってもらうこと。私たちはこのオフに沖縄で体験会に参加させてもらったのですが、氷の上でストーンに触れてくれることで、みなさんすごく楽しそうにしていたのでああいう機会が増えるといいなと思っています。
  • それと同時に、選手としての活動を見てもらうことも重要だと考えています。この日本代表のユニフォームを着て強くなって、勝って、応援してもらえる。ひとりひとりが強い選手になること、世界で愛されるチームになることが、普及の手伝いになれば選手としてそんなに嬉しいことはありません。
  • 藤澤ロコ・ソラーレとして初めて出場した2016年の世界選手権は、カナダのスウィフトカレントという街での開催でした。私たちは決勝まで進むことができたのですが、その相手はスイス。開催国でカーリング大国のファイナルのアイスにカナダ代表が立っていないなんて、アリーナの雰囲気も微妙なものになってしまうのかな、と少し気になっていたんです。
  • でも、試合開始前の選手紹介からほぼ満席の観客が、まだ無名に等しかった私たちに多くの声援や拍手を送ってくれました。結局、最後は私のショットが決まらずに準優勝で終わってしまいましたが、その時も観客は本当に大きな拍手で讃えてくれて。あの光景には心をうごかされましたね。忘れられません。
  • 石崎ロコ・ソラーレに加わるかどうかは正直、とても迷いました。みんなすごくいいことを言ってくれるのですが、その時点でもう既に世界で大きな結果を残しているチームですし、他にもロコに入りたい人も、4人と同じ年代には優れた選手がたくさんいて。でも、みんなが何度も連絡くれて、なんだったら札幌まで来て「どこどこホテルにいるから来て!」と呼び出しをくらったりもして……。
  • 鈴木だって好きだったんだもん!石崎選手が良かったから!
  • 夕梨花鈴木選手、とまれ!
  • 鈴木はい。
  • 石崎まさにそれで、最終的にみんなが「琴美ちゃんがいい」って言ってくれたのにうごかされました。それから本当にこの4人の大冒険をいちばん近くで見させてもらって心がうごかされっぱなしです。
選手情報
スキップ●藤澤五月(ふじさわ・さつき)
1991年5月24日北海道北見市出身。世界でも3指に入るスキップで日本カーリングのアイコン的存在。酒豪としても知られており、特に日本酒が好き。最近、気になっているのは秋田醸造の「ゆきの美人」。
サード●吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日北海道北見市出身。バイススキップとして藤澤の投じたストーンをハウスに正確に導く。インスタグラムで31万のフォロワーを持つカーリング界随一のインフルエンサーでもある。
セカンド●鈴木夕湖(すずき・ゆうみ)
1991年12月2日北海道北見市出身。正確なウェイトジャッジと激しいスイープでチームを支えるロコ・ソラーレのブースター。趣味は愛犬の散歩とオカリナ演奏と快活CLUBでロング滞在。
リード●吉田夕梨花(よしだ・ゆりか)
1993年7月7日北海道北見市出身。2022年の北京五輪ではリードとして最高値となるショット率91%という驚異的な数字を記録した。好きな食べ物は馬刺し、ウニ、ぼんじり。
フィフス●石崎琴美(いしざき・ことみ)
1979年1月4日北海道帯広市出身。小野寺亮二、JDリンドという両コーチと共に戦況を見極め、後方から支援する不可欠な存在。趣味はベーカリー巡りで、お気に入りは「ドライフルーツや胡桃が入ったハード系」。
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